アイスドール


出足が鈍る。

腕が重い。

呼気が凍る。

体温が奪われる。

ボクは今呼吸できているんだろうか。
振るった拳は敵に届いたんだろうか。
自分の行動が把握できないもどかしさ。
そのもどかしささえ思考ごとどこかに行ってしまいそうな、
この、永久凍土。

こんな所に人間が居るとはとても思えない。
思えない、が、高名な冒険家の目撃談も多い。
現段階で既に周りの情報を鑑みると、
信憑性云々というよりは、
もはや確実に居ると言えるくらいに目撃情報が多い。

ちょっとした好奇心だった。
自分の力量を顧みず、甘い気持ちで乗り込んだ報い、だ。
しばらく修行を怠っていたボクは元々の力量不足に加え、
久々の格闘で思うように体が動かず、
既に何度も倒れ、命からがら逃げ延び、
逃げ延びた先でまた倒れ。

ここ数ヶ月で少しずつ積み重ねていた経験・自信は既に無くなり、
あと少しで次の段階に進めるはずだった経験値は、
既に40%を切っていた。


じゃあ来なければ良かったのか。
それは、違う。
ボクは格闘家であると同時に冒険家だ。
そこに冒険がある限り、行かないわけにはいかない。


とりあえず今は歩を進めるしかない。
だが、ここに居る精霊達は、牛に恨みでもあるんだろうか。
恐ろしい強さで襲い掛かってくる。



ボクの存在を歯牙にもかけず、
通り過ぎざまに、そう、自然に、
帰宅した時に電気のスイッチを入れるような、
意識しないほどの自然さで、
致命打を入れていく。

視界が一瞬静止画のように固まったかと思うと、
次の瞬間、恐ろしい数の攻撃が叩き込まれている。

正直、早すぎたかもしれない。
ボクが拳を振り上げるその刹那、
致死量のダメージを与えてくる。

それでも、死に体を引きずって、奥に進む。
噂の氷の女王を、一目見るために。
いずれ戦うであろう、その敵を焼き付けるため。





・・・?
なんだ、ここ・・・
ここだけ嫌な冷気が・・・心が底冷えす・・・
グシャッ るよう゛・・・なっ!?

あっ・・・視界が・・・気・・・殴られ・・・・・・・殴ら・・・れ?潰・・・され・・・

あ、、、あ、、ゆ、歪む・・・誰・・・か・・・・動悸・・・が・・・
あ・・・凍り女王?・・・見ないと・・・



だ・・・め・・・・頑張っ・・・れっ・・・ボクの目・・・・・・
ここ・・・・まで・・・来・・・・


うあああああ開けっ・・・目っ・・・・




あいつ・・・・が・・・

こっちを、、、、。。。見て・・・・・振り向・・・けっ・・・



あ・・・・・

歪・・・・・・





細く残った意識で、ぼんやりと、
ボクをここまで導いてくれたみんなは無事だろうか、
とか、まぶたの裏に姿を思い浮かべた







あぁ、イメージのまぶたも閉じてしまう


次第に生暖かい湖がボクの周りに広がっていき、


ボクがかろうじて繋ぎとめていた意識も、


消えた。



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