さよなら都会鬣


鬣は「たてがみ」と読みます。
・・・冒険の記録をつけているってだけなのに、ボクは誰に向かって話しかけているんだか。
今日はどうかしてる。
あんな事を思い出してしまったからか。


アクアリースを拠点に修行を積んでいると、どうしても思い出してしまう過去がある。 そう、あれはまだボクが若く、 今居るゴールドアクアリースと良く似た町、サンアクアリースに居た頃・・・



人の波に呑まれ、ただ立ちすくむしかなかったボク。
混雑に酔い、ふらりと迷い込んだ海草の中。
ふと横切る人影。



一目惚れだった。
その瞬間から彼女の全てが輝いて見えた。
いや、実際輝いていた。




ボクは給料の三か月分の髪飾りを買い、彼女にプロポーズした。 彼女はうつむきながらも受け取ってくれた。
全てが輝いて見えた。
全てがうまくいくと思っていた。





でも歳月は過ぎ、ボクはすっかりダメになってしまっていた。 何がいけなかったんだろう。 きっと甘えてしまったんだろう。 変わらず続いた日常に。
でも、当時のボクには自分が甘えている事さえわからなかった。


そして彼女はいなくなった。



「大切な物は持ってる人ほど大切さに気づかない。 無くしてしまって初めてその大切さに気付く。 そして残念なことに、大切な物はそうそう手に入らない。 一度無くしたら二度と戻らないくらいに、ね。」

だなんて。
魚民で隣の席だったフケた男が散々からんで人生を語ってきた時の言葉がなんで頭から離れないんだ。

バカらしい。
そんな考えはやめてしまえ。
見てろ。
ボクはもう一度手にしてみせる。
あの幸せな日常を。
あの輝く笑顔を。



死に物狂いで腕を磨き、ゲルダを貯め、

借金を全て返した。

そしてまた、髪飾りを買った。

髪飾りを握りしめて

彼女の居るはずの場所へ向かう

もう一度ボクのために笑ってくれるだろうか







色々な考えが頭を過りつつ到着。

時の流れは残酷に結果だけを突きつけた。





ボクはその姿を見た瞬間

もうあの幸せな日々は絶対に戻ってこないと悟り

ただその場に崩れ落ちるしかなかった



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