厳しい優しさ 効率に逆らう 俺の気持ちを 知っているのか 赤いナックルー 燃える男の 赤いナックルー そんな歌を口ずさみ、 拳一つを頼りに研鑽を積んだボクは 迫り来る魚雷も叩き落せるようになっていた。 どうもゴーストブルーには魚雷が多いらしく、 民間船にも被害があると聞いたボクは、明けても暮れても魚雷を叩き落し続けた。 主に正拳や蹴りで叩き落し続けていたのに、何故か人差し指が痺れてきたので、 休憩する事にした。 すると どうも 良くない電波を受信してしまった。 見た感じ「できるだけ関わりたくない」とは思ったものの、 純粋な子供の心に深い傷を負わせるのも酷なので、 笑顔で話を聞くことにした。 それは大変だ。 幸いボクの倉庫には、叩き落し続けた魚雷についていたプロペラが沢山ある。 だが断る。 あ、いやいやいや。 勘違いしないで、マリネル君。 別にプロペラとか鉄板を売らないと金が無いやばいとかそんな気持ちがあるんじゃなくて、 こう、与えるだけが優しさじゃないって気づいて欲しい。うん。 それにホラ一応ボクは格闘家として駆け出しだし、 地道に貯蓄していかないと。 だいたいルイス師匠、弟子に技教えたり指導するの、指導料取るんだよね。 あ、今のナシ。いやほらお金じゃなくてさ。 やっぱりこうもっとガッツを持って、自分の失敗は素直に謝って埋め合わせなり修理なりするといいと思うんだ。 いや、確かにボクの言ってる事は厳しいかもしれないけど、それは君を思えばこそで、優しさなんだ。 うん、いいんだ。今はわからなくていいんだ。 でもいつかきっとわかるようになった時、これで良かったって思えるから。 うんホント。格闘家ウソつかない。 それじゃ、そういうことで。 ボクは町に向かって駆け出した。 ボクも心苦しいし、ホントは助けてあげたかったが、彼を思えばこその決断だった。 強い男に育ってくれよ。 時々、こんな優しすぎる自分は格闘家に向いてないんじゃないかな、と思う。 町に戻り、倉庫からプロペラを出して処分しようとしてると、 少し離れた所に居る二人組みの会話が聞こえてきた。 通行人A:そういえば 通行人A:皮ベルトって知ってる?w 通行人B:知ってるw 通行人B:攻撃力 通行人B:上がるやつでしょ?ww 通行人A:あれ 通行人A:マリネルって子が持ってるらしいw 通行人B:マジかwww 通行人B:でも 通行人B:子供が持ってても 通行人B:使わないでしょwww 通行人A:www 通行人A:だから 通行人A:困ってる時に助けてくれた人に 通行人A:あげてるらしいww 通行人B:マジかwww マジか。 ボクはその何気ない会話を聞くうちに、さっきの少年のことがたまらなく心配になり、 気がつくと彼の元へ戻っていた。 手には鉄板とプロペラと、噛み締めた歯形の残るタコ足を握り締めて。 ふと、こんな優しすぎる自分は格闘家に向いてないんじゃないかな、と思った。 |